ビジネス文書や名刺などで目にする「株式会社」という言葉。実際に声に出して読むとき、「かぶしきがいしゃ」と読む人もいれば、「かぶしきかいしゃ」と読む人もいますよね。
この違いに迷ったことがある方も多いのではないでしょうか。とくに会社名を正式に記載したり、読み上げたりする場面では、正確な読み方を知っておきたいものです。筆者も公的な用紙にフリガナを記入する際などはどっちかな?と迷った経験があります。
ここではまず、「株式会社」という言葉の読み方に複数のパターンが存在する理由と、どちらが一般的なのかについてご説明します。この記事を読めば、「株式会社」の読み方やフリガナでもう迷うことはありません。
この記事ではこんなことが分かります。
- 株式会社の正しい読み方
- 株式会社の読み方で迷ったらどうすればいい?
- (株)など略称の正しいフリガナ
株式会社の読み方は「かぶしきがいしゃ」?「かぶしきかいしゃ」?
結論からお伝えすると、「かぶしきがいしゃ」と「かぶしきかいしゃ」の両方が正しい読み方とされています。
株式会社の読み方で主流はのは「かぶしきがいしゃ」
ただし、日常的にもビジネスの現場でも、より多く使われているのは「かぶしきがいしゃ」です。
これは後ほど詳しく触れますが、日本語の「連濁(れんだく)」という発音変化が大きく影響しています。また、企業登記などの公式な場面でも「かぶしきがいしゃ」が多数派を占めています。
とはいえ、「かぶしきかいしゃ」が誤りというわけではなく、辞書にも正しい読み方として記載されています。つまり、使い方の違いではなく「どちらがより一般的か」がポイントとなります。
なぜ2つの読み方があるのか?
「株式会社」の読み方に2通りある背景には、日本語特有の発音ルールや、長い年月を経て定着した慣習が関係しています。
一部の方は「濁っている方が聞きやすいからじゃないの?」と感じるかもしれませんが、実はこの「濁音」には明確な言語学的な根拠があるのです。特に、2つの言葉をくっつけたときに起きる音の変化、つまり「連濁」が読み方に影響しています。
また、フリガナの書き方が公的に明文化されたのは比較的最近であるため、過去には地域や慣用表現の違いも読み方に影響を与えていました。
連濁(れんだく)による読み方の変化
「かぶしきがいしゃ」が一般的になっている理由のひとつに、日本語特有の音声変化である「連濁(れんだく)」があります。
連濁とは何か?【言語学的な視点】
連濁とは、複数の単語をつなげた際に、後ろの言葉の語頭が清音から濁音に変化する発音ルールのことです。
この現象は自然な発音の流れをつくるための日本語のしくみであり、特定の条件下で自動的に発生します。以下に連濁の代表的な例をまとめてみました。
言葉 | 変化前 | 変化後(連濁) | 意味 |
---|---|---|---|
手紙 | て + かみ | てがみ | 書いた文章やメッセージ |
山口 | やま + くち | やまぐち | 山の入り口や地名 |
花火 | はな + ひ | はなび | 打ち上げや手持ちの火遊び |
川口 | かわ + くち | かわぐち | 川の出口や地名 |
雨雲 | あめ + くも | あまぐも | 雨を降らせる雲 |
猫背 | ねこ + せ | ねこぜ | 背中が丸くなる姿勢 |
鳥羽 | とり + は | とば | 地名 |
同様に、「かぶしき」+「かいしゃ」は「かぶしきがいしゃ」と濁るのが自然な発音です。
「かぶしき」+「かいしゃ」が「かぶしきがいしゃ」になる理由
「かぶしき」と「かいしゃ」を一語として続けて発音するとき、無意識のうちに「かいしゃ」の「か」が「が」に変化するのは、まさに連濁によるものです。
このため、「かぶしきがいしゃ」という発音が多くの人にとって自然に感じられ、実際の会話や放送、ビジネスの現場でも広く使われているのです。
実際の企業名はどちらで登録されている?
理屈だけでなく、実際にどう使われているかを確認してみるのも大切な判断材料になります。
ここでは、登記簿などの実例から、どちらの読み方が主流なのかを見ていきましょう。
商業登記で使われるフリガナの傾向
2018年以降、法人登記にはフリガナの記載が義務付けられました。これにより、全国の株式会社がどのように自社名の読みを記しているのか、統計的に確認できるようになっています。
法務省の商業・法人登記申請書に法人名のフリガナ欄を追加する案内
フリガナがカブシキガイシャでの登録数
フリガナがカブシキカイシャでの登録数
「かぶしきがいしゃ」が多数派である理由
この傾向には複数の要因が考えられますが、やはり「連濁によって自然に発音される」「会話や音声でも違和感がない」「辞書上でも先に記載される」といった理由が大きいとされています。
また、テレビやラジオ、企業CMなどでも「かぶしきがいしゃ」と発音されることが一般的であるため、これが一般認識として定着していることも影響しています。
「株式会社」の略し方と注意点
日常のビジネスシーンでは、文書や名刺、メールなどで「株式会社」を省略して表記することも多いですよね。
ただし、この略し方にもいくつか注意点があります。
メールや名刺ではどう略す?
名刺やビジネス文書では、「株式会社」を「(株)」と略すことがあります。
たとえば、「(株)○○商事」のような書き方です。これはスペースの都合や視認性の配慮から用いられるものですが、正式文書では略称ではなく「株式会社」と表記するのが一般的です。
株式会社を「(株)」と略しても良い?
基本的に、社内のメモや議事録、個人的なメモ書きなどでは「(株)」の略記は問題ありません。
しかし、公的書類や契約書、登記簿などでは略さず「株式会社」と書くことが求められます。
略称のフリガナをどうするか
「(株)」などの略記にフリガナを付けることは、公的登記や正規文書ではほとんど行われません。これは、登記簿や法務局提出書類では会社名を略記せず、正式名称を記載することが義務づけられているためです。
一方で、銀行や金融機関の口座開設書類などでは、略記表記(例:(株)、(有)など)を入力する欄が存在し、フリガナ(カタカナ)を併記するケースもあります。これは、システム上の入力スペースや運用ルールによるもので、登記上の正式名称とは区別して扱われます。
銀行などで使用される略称のフリガナ
用語 | 略語 |
---|---|
株式会社 | カ) / (カ / (カ) |
有限会社 | ユ) / (ユ / (ユ) |
合名会社 | メ) / (メ / (メ) |
合資会社 | シ) / (シ / (シ) |
相互会社 | ソ) / (ソ / (ソ) |
医療法人 | イ) / (イ / (イ) |
一般財団法人 | ザイ) / (ザイ / (ザイ) |
公益財団法人 | |
一般社団法人 | シヤ) / (シヤ / (シヤ) |
公益社団法人 | |
宗教法人 | シュウ) / (シュウ / (シュウ) |
学校法人 | ガク) / (ガク / (ガク) |
社会福祉法人 | フク) / (フク / (フク) |
特定非営利活動法人 | トクヒ) / (トクヒ / (トクヒ) |
株式会社のフリガナ・ひらがな表記に関するFAQ
ここからは、実際によくある質問に答える形式で、さらに理解を深めていきましょう。
Q:「株式会社」のひらがな表記は間違い?
「株式会社」を完全にひらがなで「かぶしきがいしゃ」と書くことは、会話文や子ども向け資料など特別な事情がある場合を除き、正式な場面では避けたほうが良いです。
特にビジネスや公的文書では、会社名としての「株式会社」は必ず漢字で表記するのが一般的です。
ただし、読みを明示するためにカタカナでフリガナをふるのは正式なスタイルとして許容されています。
Q:フリガナはカタカナかひらがな、どちらが正しい?
一般的には以下のようなルールがあります。
- 「フリガナ」欄にはカタカナ 例:フリガナ → カ)オリエンタル
- 「ふりがな」欄にはひらがな 例:ふりがな → か)おりえんたる
この形式は法的に全国統一の決まりがあるわけではありませんが、法務省の商業登記や多くの公的書類では事実上の標準となっています。企業登記などの公式書類ではカタカナ表記が無難です。
Q:登記では略さず書いたほうがいいの?
はい、登記の際には「(株)」のような略称ではなく、正式に「株式会社」と記載する必要があります。
フリガナも同様に、「カブシキガイシャ」のように略さずすべての音をカタカナで書くことが求められます。
これは、法的文書の正確性と明瞭性を保つための基本ルールです。
まとめ:「株式会社」の読み方やふりがなで迷ったら?
最後に、本記事のポイントを簡単に振り返っておきましょう。
日常では「かぶしきがいしゃ」、公的にも許容される
「株式会社」は、「かぶしきがいしゃ」と「かぶしきかいしゃ」のどちらも正しい読み方とされています。
ただし、日常的に多く使われているのは「かぶしきがいしゃ」であり、これは日本語の連濁という自然な発音変化に基づいています。日常使い慣れない漢字で興味深い漢字として「櫆」があります。詳しくは「櫆」のきへんなしの漢字「魁」(かい)の意味と名前としての使われ方を徹底解説でみてみてください。
辞書や登記の実例を見ても、「かぶしきがいしゃ」が圧倒的多数で使用されており、安心して使える読み方です。
読み方と書き方を理解して使い分けよう
ビジネスや法律の場面では、正確な言葉遣いが信頼のカギになります。
この記事で紹介した以下のポイントを意識しておけば、読み方やフリガナの記載で迷うことはほとんどなくなるでしょう。
- 「株式会社」は漢字で正式表記
- フリガナはカタカナで「カブシキガイシャ」
- 略記は非公式な場面にとどめる
- 読み方は「かぶしきがいしゃ」が一般的だが「かいしゃ」も誤りではない
日本語の正しい運用を身につけて、より信頼される文書表現を心がけていきましょう。
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